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ミツバチと共に90年――

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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

ミツバチの弔問

室市雅則

 

 僕は生まれてから4歳まで団地に住んでいた。
 白い外観に、10部屋ほどが一直線に並んだ4階建てのアパートが6棟建っており、その敷地には小さな公民館があった。
 公民館では、たまに葬儀が行われることがあり、花輪や部屋の中の祭壇に飾られた遺影を眺めることがあった。
 片手に消防車のミニカーを手に一人で遊びに出たある日、公民館で葬儀(昼だったので告別式だったと思われる)が行われていた。当時は、遺族の思いや悲しみはおろか「死」への意識は軽薄で、お坊さんの姿とお経が面白くて、意味もなく「なむなむ」などと口にして手を合わせてふざけていた。その時も、公民館の引き戸からお坊さんがお経をあげている姿が見えた。そのままセメントの縁台に膝をついて、見ず知らずのおじいさんの遺影とお坊さんの後頭部を眺めながら、手を合わせた。
 すると耳元を羽音が通り過ぎた。
 大きな羽音だったので慌てて身を翻し、その主を探すと縁台に僕と並ぶように一匹のミツバチが止まっていた。
 しかもただ並んでいるのではなく、ミツバチは遺影に顔を向けていた。
 じっとしているミツバチが珍しく、僕は観察するように見つめた。黄金色の綿毛、オレンジと黒の縞模様がとても綺麗だった。一向にミツバチは微動だにしなかった。
 子供は残酷なもので、動かないならば、動かしたい。人間(僕)に驚けという征服欲が湧いた。そして、僕の片手にはミニカー。これで驚かそうと思いついた。
 ミニカーをミツバチに近づけるが、ミツバチは逃げない。ぶつけるぞと、さらに近づけても逃げない。悔しくなり、突っ込ませると衝突直前でミツバチは飛び立った。
 僕は満足し、その場にも飽きたので帰ろうとすると再び羽音が通り過ぎた。
 縁台を見ると先程と同じように灰色の縁台にオレンジと黒の縦縞がぽつんと佇んでいた。
 もしかしたら、このミツバチはお葬式に参加をしているのかもしれない、このおじいさんと何か思い出があるのかもしれない、最後のお別れを言いに来たのかもしれないと思い至った。
 僕は驚かすことは止め、ミツバチをそのままに公民館を立ち去った。
 次の日、公民館の飾りはすっかり片付けられ、ミツバチもその姿を消していた。
 これが唯一と言って良いほど、ミツバチやハチに関連する出来事だなと思うと、もっと密接なものがあった。僕の誕生日は8月3日、「はちみつの日」なのだった。その割に、ミツバチは僕の周りにいない。

 

(完)

 

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